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ベトナムへの日本企業進出が増えている!M&Aのメリット・デメリット、注意点とは?

1. 日系企業の進出状況

東南アジアの中でも日本企業を始めとして海外企業の進出が目覚ましいベトナムは、今後の経済的な発展が期待されている国の一つです。

世界銀行の統計では、ベトナムにおけるGDPは2060億ドル程度と言われていて、国内の工業化と近代化を推進する政府の政策が着々と進められているためだと考えられています。

他の東南アジア諸国と比べると、ベトナムは人件費や物価がまだまだ低いため、日系企業の東南アジアへの投資先として注目されています。

日系企業のベトナムへの進出は、現地法人を設立したりM&Aなどの方法がありますが、これらの投資額は約100億円規模となっています。

ベトナムは2007年にASEANに加盟して自由貿易地域へ参加したり、世界貿易機関へ加盟するなど、国際的な経済ネットワークへ積極的に参加をしています。

こうしたこともまた、日系企業のベトナム進出を後押しする要因となっています。

2. ベトナム企業を買収するメリット

日系企業にとって、ベトナム企業を買収するメリットはたくさんあります。

まず1つ目のメリットは、ベトナムはたくさんの人口を抱えているため、労働者を確保しやすいという点があります。

ベトナムの人口は9500万人程度で、経済発展に伴って生活の質や個人所得が上昇しています。

商品やサービスの品質への期待も高くなっているため、ベトナム国内のマーケットは今後も大きく拡大することが予想されています。

大きなマーケットがあり、労働力を確保しやすいというメリットは、日本企業にとってはベトナム進出の際には大きな魅力となります。

2つ目のメリットは、インフラの改善が急ピッチで進められているという点があります。

道路や鉄道、空港などのインフラ整備が進むことによって、工場や商業のエリアを拡大しやすくなり、経済の発展にもつながります。

近年のベトナムでは、インフラへの投資額がGDP全体の7%程度を占めていて、これは他の東南アジア諸国と比べてもとても高い割合です。

3つ目のメリットは、ベトナム政府と日本政府との間で投資協定を締結しているという点があります。

ベトナム政府は日本企業の経済活動を援助するための協力を提供してくれていて、2003年には日越投資協定も締結しています。

現地政府の友好的な協力があるため、日系企業にとってはベトナムは進出しやすい国と言えます。

3. 日系企業によるベトナム企業買収事例

日系企業によるベトナム企業M&A買収の事例をいくつかご紹介しましょう。

1つ目の事例は、2007年に行われた三井住友銀行がベトナムの銀行であるエグジムバンク(EIB)をM&A買収したというものです。

この買収では、買い取り額は250億円と言われていて、M&A後は三井住友銀行がエグジムバンクへ15%の資本出資を行っており、その結果、エグジムバンクはベトナム最大の民間銀行へと成長することが期待されています。

このM&Aにおける買取目的は、ベトナムに進出する日系企業への融資環境の整備のため、というものでした。

2つ目の事例は、おむつメーカーのユニ・チャームがベトナムのおむつメーカーであるダイアナ社を買収したM&Aがあります。

日本のおむつは高品質のため、東南アジアでは高い人気があります。

そのユニ・チャームがベトナムのおむつ市場に参入したことにより、ベトナム国内における市場拡大が期待されています。

このM&Aにより、ユニ・チャームはダイアナ社の95%の株を取得し、ダイアナ社はユニ・チャームの子会社となりました。

3つ目の事例は、ビールを始め飲料メーカーとしてよく知らているキリンによる、インターフード社(IFS)の買収があります。

インターフード社はベトナム国内で多くの飲料ブランドを展開しているメーカーであるとともに、国内では11万店舗以上の流通ネットワークを持つ企業でした。

そのため、この買収によって、キリンはベトナムへの市場拡大が可能となり、グローバルにキリンブランドの販売チャンネルの拡大を進める基盤を手に入れたということになります。

ちなみに、このM&Aでは、キリンはインターフード社の株式57.25%を取得するとともに、インターフード社が持っていた知的財産権や管理会社の発行済株式を全て買収するというクロスボーダーM&Aが行われました。

4つ目の事例は、総合商社の双日によるサイゴンペーパー(GSP)のM&A買収があります。

サイゴンペーパー社は、もともと段ボールや家庭用紙などのペーパー商品を手掛けるメーカーで、2011年には大王製紙によって買収されたという過去があります。

しかしその後、大王製紙は株を売却して事業から撤退したため、2018年に双日がサイゴンペーパー社の株を95%取得してM&Aを実施したのです。

サイゴンペーパーのM&A前の売り上げはすでに130億円もあるため、この買収によって双日はベトナム国内にマーケットを拡大するとともに、グローバルな進出の基盤整備を可能にすることができたのです。

5つ目の事例は、飲料メーカーのサントリーがアメリカ系飲料メーカーであるペプシコのベトナム現地法人を買収したというものがあります。

ペプシコインターナショナルベトナムカンパニーは、ペプシコ製品をベトナム国内で製造販売するメーカーで、この買収によってサントリーは東南アジアにおけるマーケットシェアの拡大が期待されています。

2012年に実施されたこのM&Aの買い取り額は非公表となっていますが、200億円規模だと言われています。

4. ベトナムへの進出では取引レートに要注意

ベトナムへの進出やM&Aを検討している企業は、取引レートについては注意が必要です。

ベトナムにおける取引通貨は、日本円ではなくアメリカドルで行われることが多いため、日系企業とのM&Aだから取引は日本円になるだろうと予想していると、取引レートの変動によって買収額が予定していた金額よりも割高になってしまうことがあります。

5. ベトナム企業の評価額は二重のチェックが必要

ベトナム企業のM&Aにおいては、その企業の正当な評価額での買収が必要です。

しかしベトナム企業は全般的に、自社の評価額を高めに見積もることが多いため、この点には注意が必要です。

適切な価格での買収を実現するためには、しっかりと第3社による評価額を計算してもらった上で、M&Aをすすめるかどうかを判断しましょう。

6. ベトナムには国有企業が多い

ベトナムはベトナム社会主義共和国という名称の通り、社会主義の部分がまだ色濃く残っています。企業もすべてが民間企業というわけではなく、国営企業も数多く残っているため、M&Aにおいては注意が必要です。

国営企業を民営化した上でM&Aによる買収を行うという方法もアリですが、法の整備がまだまだ追い付いていないため、時間や労力を考えると割に合わないというケースは少なくありません。

7. 日本とベトナムの法律は大きく違う

日本とベトナムとでは、企業のM&Aに関係する法律が大きく異なります。

そのため、日本と同じルールでM&Aを進めると、ベトナムにおいては法律違反となってしまうリスクがあるので注意しましょう。

例えば、ベトナムにおける株式会社では、3人以上の株式会社が必要で、株式会社は普通株式とは別に他の種類の株式を発行することも可能ですし、社債を発行することもOKです。

また、株主総会は会長や社長が開催決定権を持っているだけでなく、出資総額の25%以上を保有している株主がいつでも開催できる仕組みとなっています。

8. ベトナムM&Aにおけるデューディリジェンスとは?

企業のM&Aでは、買収をする上でのリスクを洗い出すデュー・ディリジェンス(DD)をする事はプロセスの中で必要不可欠です。

これは、ベトナム企業だけに限定したものではありません。

しかし、ベトナム企業に題するデュー・ディリジェンスを行う場合、資料が不足しているためにリスクを洗い出すことが難しいなど、限界を感じることは少なくありません。

これはベトナム企業の買収を検討する多くの企業がぶつかる壁です。

しかし、限界を感じるからと言ってデューディリジェンスに意味がないということはありませんし、すべてのリスクを洗い出すことはできなくても、可能な範囲でリスクを見つけて解決に努めることが、ベトナムM&Aに成功するコツです。

9. 補償請求を整備した上でM&Aを進めよう

ベトナムM&Aでは、デューディリジェンスに限界があるため、交渉の途中でどのようなリスクが浮上してくるかは分かりません。

これは日本企業にとっては大きなリスクと言えます。

このリスクを最小限に抑えるためには、売り主による表明保証違反が発生した時には、きちんと補償請求できる環境を整備しておくことが必要です。

中小規模の企業によるM&Aでは、とかくこうした部分を意識せずに交渉を進めてしまうことが多いものです。

表記保証に明記されている条項が守られない場合には補償請求できるよう、
交渉することが必要です。

10. ベトナムの慣習によっては保証請求が難しいケースも

ベトナムのM&Aにおいては、企業が二重帳簿を持っていたり、賄賂の文化が根強く残っていたり、また知っていて嘘をつくなどの慣習が、交渉の際にトラブルになるケースが多いと言われています。

そのために、表明保証違反に対しては、日本企業がシッカリと補償請求を行って自衛しなければいけません。

この際、できるだけ細かい部分までカバーするように、交渉の段階ではベトナムM&Aに精通した専門サービス業者を間に入れてM&Aを進めたいものです。

11. ベトナムにおけるサンドバッキングは一般的?

ベトナムのM&Aで注意しなければいけないのは、サンドバッキングです。

これは、ベトナムの現地企業が嘘をついたり二重帳簿を持っていたり、という行為をしていたことを日本企業は知っていたのに、あえて目を背けて買収の話をすすめ、あとから都合が悪くなって補償請求をするといった行為です。

現地企業から「あなたたちだって知っていたでしょ!」と言われてしまうと、ぐうの音も出ないという結果になりかねません。

そうしたトラブルを避けるためには、専門家に相談した上で、サンドバッキング条項についてもきちんと株式譲渡契約書(SPA)に盛り込んでおくことをおすすめします。

12. 間接損害の補償は交渉のポイント

ベトナムのM&Aでは、デューディリジェンスで洗い出せないリスクがたくさんあることを見越したうえで、しっかりと万が一に備えて表明保証違反に対する損害賠償の可能性を交渉によって決めておく必要があります。

その中でも特にトラブルになりやすいのは間接損害と呼ばれるもので、ベトナムの現地企業が損害の原因を直接的に作ったわけではないけれど、間接的な原因に関与していた場合、その損害に対する補償を誰がするのかという点では、揉めやすくなる傾向があります。

間接損害の補償に関しては、日系企業によっては譲っても良い部分だと考えられています。

しかし、ただ無条件に譲るのではなく、交渉の材料として使うことで、少しでも有利にM&Aを進めることができるでしょう。

13. 補償額の上限はベトナム水準を考慮

M&Aの損害賠償請求においては、いくら以上の損害でなければ請求できないという下限を決めると同時に、いくらまで賠償請求できるのかという上限を設定するのが一般的です。

日系企業にとっては、賠償請求は下限を超えたらファーストダラーでの請求が有利となりますし、上限はできるだけ高めの設定がおすすめです。

こうした補償額を決定する際には、ベトナムM&Aにおける一般的な水準があることを憂慮しなければいけません。

例えば、上限でいえば、ファンダメンタルレップなら買収金額の100%およびそれ以上でもOKとなりますが、それ以外の一般的な上限では買収金額の10%~25%程度が一般的な基準となります。

また、請求できる損害の単位は1,000万円程度が水準で、その2倍~3倍の損害が起こった時点でベトナム現地企業へ損害賠償請求ができるという下限設定にするのが目安となります。

14. ベトナムM&Aでは全ての報連相は書面で

ベトナムM&Aにおいては、書面ではなく口頭で約束をしてしまうケースが少なくありません。

これはベトナムの一種のビジネス文化と言っても過言ではないのですが、日系企業によるM&Aでは、こうした文化が日系企業にとって大きな損失をもたらすリスクとなってしまうことがあります。

そうしたリスクを出来るだけ最小限に抑えるためには、すべての報連相に関しては書面でのやり取りをする習慣をつけることが必要です。

15. ベトナムM&Aは専門サービス業者を利用するのがおすすめ

日本企業が数多く進出しているベトナムは、ビジネスチャンスやマーケットの拡大という点では大きなポテンシャルを秘めている国と言えます。

しかし、日本とは異なる慣習や文化、価値観などがビジネスにおいても根付いているため、M&Aの際には必ずベトナムのビジネス文化や契約に精通している専門家や専門サービス業者を仲介に入れたうえで、交渉を進めることが大切です。



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