M&Aマニュアル

【専門家が語る】ベトナムのM&Aにおけるポイント・留意点を徹底解説!

近年、ベトナムは経済成長が著しく、親日かつ比較的政治も安定していることから、
日本企業にとっては魅力的な国であり、日本企業によるベトナム企業のM&A(合併・買収)に注目が集まっています。

実際にシンガポールでM&Aアドバイザリー業務に従事する中で、
ベトナムM&A案件に関するクライアントからの問い合わせは年々増加傾向にあり、
注目度の高さを肌で感じています。

一方で、日系企業のクライアントからは、

  • ベトナムM&Aを検討したいが、何から始めたら良いか分からない
  • 外資規制や条件付き投資分野、49%ルール等、簡単にまとめてほしい
  • ベトナムの法律が改正されたらしいけど、最新情報が知りたい 等

ベトナムM&Aに関して基本的な内容から応用までをできるだけ簡単にまとめてほしい!という声をたくさん頂いております。

そこで、この記事では、現在シンガポールにてM&Aアドバイザリー業務を行っている専門家の立場から、ベトナムM&Aを検討する上で必ず知っておくべき重要なポイント・留意点をまとめました。

この記事が、ベトナムM&Aを検討頂くきっかけになりますと幸いです。

ベトナムのM&Aにおけるポイント・留意点(2019年12月更新)
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「M&A実施後、誰が51%を持つことになるか?」がベトナムM&Aにおいて最も重要

ベトナム企業のM&Aを検討する場合、「仮に検討中のM&Aを実行した後、誰が51%を持つことになるのか?」をしっかり考える必要があります。

理由としては、誰が51%持っているかによって、必要な手続きが変わってくるためです。

ベトナムM&Aを検討される方であれば、まず最初に考えなければならない登竜門的な内容となります。

結果として、日本企業が51%以上持つのであれば、そのM&Aは「外国人投資家によるM&A」と見なされ、

一方、51%をベトナム国内の投資家が持つのであれば、「ベトナム国内投資家によるM&A」と見なされることになります。

【基本問題】
ベトナム人オーナーが100%保有しているベトナム企業を日本企業が51%買い取る場合

【答え】
出来上がりはベトナム人オーナー:49%、日本企業:51%となる。
この場合、外国人投資家が合計51%保有することになるため、本件は「外国人投資家によるM&A」と見なされます。

【応用問題】
ベトナム人オーナーが60%、シンガポール人投資家が40%保有しているベトナム企業の株式40%を、ベトナム人オーナーから日本企業が買い取る場合

【答え】
出来上がりはベトナム人オーナー:20%、シンガポール人投資家:40%、日本企業:40%となる。
この場合、外国人投資家が合計80%保有することになるため、本件は「外国人投資家によるM&A」と見なされます。

このように説明すると、「日本企業のベトナム子会社が51%保有することになった場合はどうなのか」という疑問が湧いてくると思いますが、

この点についてはベトナム投資法に記載があり、ベトナム子会社によるM&Aについても、「外国人投資家によるM&A」と見なされることになります。

ただし、ベトナム子会社の定義は、「日本の親会社が51%以上保有するベトナム子会社」となっており、

日本企業が51%未満保有するベトナム子会社によるベトナム企業のM&Aは、
「ベトナム国内投資家によるM&A」と見なされることになるため、注意が必要です。

51%以上の取得には、買収承認の取得が必須

買収承認とは、その買収が外資規制に反していないか、事業実施の条件を満たしているか等が当局により審査されるプロセスです。

このプロセスは、51%以上の取得、すなわち、前述の「外国人投資家によるM&A」と見なされた場合に、ベトナム企業が公開非公開会社問わず必須となります。

審査は、地方計画投資局または、工業団地・輸出加工区・ハイテク地区・経済特区の管理委員会が行い、
買収承認が完了次第、投資登録証明書:Investment Registration Certificate: IRCが発行されます。

ならば、51%未満、つまり、ベトナム国内投資家によるM&Aであれば買収承認の取得は不要なのか、というと必ずしもそうではなく、

条件付き投資分野への投資の場合には、「外国人投資家によるM&A」の場合と同様、
買収承認の取得が必要となります。

ベトナムでは良くあることですが、法律上は、買収承認の申請から15 営業日以内に、
当局から何らかの返事が来ることになっていますが、

実務上は追加で説明を求められたり、当局側の都合で15営業日よりも長くかかることは珍しくなく、この点に留意しつつ買収スケジュールを策定する必要があります。

また、買収承認の申請に必要な書類としては、以下の通りです。

  1. 投資プロジェクト実施申請書
  2. 投資家の証明書類
  3. 投資プロジェクト提案書
  4. 財務書類(決算報告書、資本力説明書等)
  5. 賃貸契約書・不動産関連書類
  6. 投資プロジェクト実施に関する技術証明書(法令で制限された技術を移転するプロジェクトの場合)

なお、投資登録証明書に記載される主な内容は以下の通りです。

  1. 投資プロジェクトコード
  2. 投資家の名称、住所
  3. 投資プロジェクトの名称、実施地点、使用する土地面積
  4. 投資プロジェクトの投資資本
  5. プロジェクト活動期間
  6. プロジェクト実施計画

買収承認はなんだか面倒で煩雑そうと思われる方も多いと思いますが、
投資法改正前は、「投資証明書」というプロジェクトの詳細について記載しなければならない資料の提出が求められ、手続きには45日も必要でした。

昔と比べると、手続きが簡素化され、手続きに要する期間も短くなっており、
外国人投資家によるベトナムM&Aのハードルは下がってきているといえます。

「企業登録証明書の変更手続き」は全てのベトナムM&Aに必須

買収承認(投資登録証明書)とは異なり、「外国人投資家によるM&A」か否かに関係なく、ベトナムの対象会社は必ずサイニングからクロージングの間に、企業登録証明書の変更申請を行う必要があります。

これは、日本でいうところの、株主名簿書き換えのプロセスとなるため、
買収承認が不要な場合、すなわち、「ベトナム国内投資家によるM&A」の場合でも、
必ず必要な手続きとなります。

法律上、企業登録機関が変更申請書類を受領してから営業日3日以内に審査を行い、
新しい企業登録証明書の発行を行うことが明記されているものの、

買収承認のプロセスと同様、実務上は3営業日以上かかることが一般的であり、
企業登録証明書発給までの期間は業種によっても異なるようで、
このあたりの詳細は現地の専門家に確認を行う必要があります。

当局に負けるな!譲渡対価の支払いはライセンス手続きが終わってから

旧投資法では、買収承認や企業登録証明書の変更手続き等のライセンス手続きを行うためには、「譲渡対価の支払い(クロージング)が完了したこと」を証明する必要があったため、

クロージング後にライセンス手続きを行わなければならないという、何とも違和感のあるプロセスを経る必要がありました。

これに対しては、承認取得ができるか否か不確実性の高い中で、譲渡対価の支払いのみ先行して行わなければならず、このプロセスについて外国人投資家からの批判は多くありました。

現在の投資法ではその条項は改正され、ライセンス手続きを行う際に譲渡対価の支払い証明は不要となったものの、実務が法律の変更に追い付いていないためか、
今なお、譲渡対価の支払い証明を当局より求められるケースはゼロではないのが現状のようです。

そのため、買収承認の取得が必要なベトナムM&Aを行う場合には、
①買収承認の取得、②変更済みの企業登録証の発行、を株式譲渡契約書のクロージング条件(Condition Precedent:CP)とし、ライセンス手続きが完了したことを見届けてから譲渡対価の支払いを行うようにしましょう。

仮に、ライセンス手続きの際に当局から、譲渡対価の支払い証明の提出を求められても、はっきりと「No」という姿勢を示し、自分の意見を持った上で専門家の判断を仰ぐことをオススメします。

「公開会社49%ルール」の廃止により、原則として100%買収が認められているが、例外も

以前までは、日本企業がベトナムの公開企業を買収する場合、

「49%までしか買収しちゃダメ」という「49%ルール」が存在しましたが、

2015年9月1日に施行された政令60号(60/105/ND-CP)において原則撤廃され、

多くのサービス分野で日本企業100%による参入が認められております。

つまり、「100%買ってOK」になりました。

 

その背景には、2007年のWTO(世界貿易機関)への加盟があります。

ベトナムはWTO加盟の際、

各種サービス分野を外国企業へ段階的に市場開放すると約束したことにより、

「49%ルールの撤廃」に至っております。

 

上記の通り、「100%買ってOK」となったものの、

一部では、まだ制限されている業種もあり、

買収に制限がある業種ついては、「投資禁止分野」と「条件付き投資分野」があります。

そのため、ベトナムM&Aを行う際には、まず初めに対象会社の業種を確認し、

「本当に日本企業が買収できる業種の会社なのか」をチェックする必要があります。

 

なぜ外国人投資家による投資を制限するのかというと、

「ベトナム国内の産業や雇用を守るため」です。

そのため、「どの国内産業を守るのか」については、
ベトナム国内の状況に応じて変化するため、それに伴い外資規制も変化します。

下記は、電子決済関連企業への外国投資家の出資比率の上限を49%するという規制案が発表されたときのニュースです。

2019/11/12:電子決済業への外資上限49%に=中銀案、資金・安全確保でバランス

このように、「49%ルール」が撤廃された現在でも、

「条件付き」という形で、
ベトナム企業の合弁会社設立が義務付けられたり、出資比率が制限される等、

業種によっては今なお、「外資規制」が残っています。

買収後の体制検討のため、「ベトナム独特の組織形態」の理解は必須

日本国内のM&Aにおける対象会社は、ほとんどが「株式会社」ですが、
ベトナムでは「有限責任会社」がほとんどです。

理由としては、
株式会社は、「株主が3人以上必要」かつ、「設立に時間と費用が掛かる」ためで、

そのため、「上場目指すぜ!」という企業以外は一般的に「有限責任会社」を選択します。

 

有限会社と株式会社、単なる呼び方が違うだけでしょ?

と軽く考えていると、買収後に大変な思いをすることになります。

なぜなら、会社の形態が異なることで、
買収後の体制・事業運営の方法が大きく変わってくるからです。

 

まずは、ベトナムではどのような会社形態があるのか見ていきましょう。

ベトナムM&Aにおいて理解しておくべき企業形態は下記の3つです。

① 一人有限責任会社(出資者1名)

② 二人以上有限責任会社(出資者2名以上50名未満)

③ 株式会社(株主3名以上)

上記の通り、
「一人」とか「二人以上」というのは、「社員」の数です。

 

え?社員?従業員が1人?

 

と思った方は、下記のポイントを見てください。

有限会社の出資者を「社員」、株式会社の出資者を「株主」と呼びます

【例題1】
日本企業により買収され、創業者49%、親会社51%保有するベトナム合弁会社(JV)

【答え】出資者が2名なので、「二人以上有限責任会社」となります。

【例題2】
日本企業により買収されたベトナム100%子会社

【答え】出資者が1名なので、「一人有限責任会社」となります。

 

ここまでで、「3パターンの会社形態」があることは理解してもらえたと思いますが、

それらは何が違うのでしょうか。

次は、「理解しておくべき違い」について説明していきます。

設置機関の違い

ベトナム企業の設置機関は少し複雑で、下記のような設置機関があります。

  1. 「委任代表者」:出資者の代表(一人有限責任会社の場合に必要)
  2. 「法定代表者」:会社の代表者。日本でいう「代表取締役」と同じ
  3. 「社長」:事業運営の代表者
  4. 「監査役」:会長や社長や業務を監督する

会社形態ごとの「設置機関」の違いを図にまとめました。

意思決定方法の違い

会社形態ごとの「意思決定方法」の違いを図にまとめました。

ベトナムM&Aの進め方・想定スケジュール

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一般的に、ベトナムM&Aでは、欧米諸国のようなオークションプロセスになることは少なく、多くの場合、売り手と買い手1社でプロセスを進める相対取引となります。

例として、日本企業によるベトナム企業(有限会社)のM&A(資本取得)の一般的なプロセスを示します。

  1. 買収ターゲット選定

    東南アジアの案件は、クローズドコミュニティでのみ案件情報のやりとりがされるケースが多いため、ベトナムやシンガポール等のファイナンシャルアドバイザー(FA)から案件情報を入手するのが一般的かつ効率的

  2. NDA(秘密保持誓約書/契約書)の差入/締結
  3. 初期的開示情報の受領(財務諸表、組織図、株主構成、登記簿謄本等)

    ベトナムM&Aの場合、売り手側のFAにもよるが、インフォメーションメモランダム(IM)のような綺麗な形で情報が纏まっていることは稀

     

  4. 質問リスト作成/提出、マネジメントインタビュー(直接面談)・サイトビジット(現地訪問)の申し入れ

    ベトナムM&Aでは、特に質問リストをやり取りするプロセスが重要となります。

    マネジメントインタビュー前に、最低1回は質問リストのやり取りをすることで、売り手サイドがどこまで親身になって回答してくれるかを判断することが可能です。

    回答が遅く、回答が不親切な場合、今後のDDにおいても売り手の十分な協力を得られない可能性もあるため、この時点である程度見極めることも重要です。

    かといって、何度も質問リストのやり取りを繰り返すのも、売り手側への心象は良くないので、一度回答を受領したら、次のマネジメントインタビューに向けた質問を作成した上で、現地を訪問のアレンジをお願いするのがベストな進め方となります。

  5. LOI(意向表明書/基本合意書)の提出・交渉・締結
  6. デュー・ディリジェンス(DD)

    ベトナムでは、シンガポール等の先進国に比べ、M&A取引に慣れていない企業も多く、タイムリーに資料の開示が行われないケースが多くあります。

    ローカルの事務所と連携してDDを進めてくれる専門家に依頼し、調査はローカル、報告は日本語で行ってもらうケースが多く、日本企業にとって最もワークしやすい体制となります。

    ベトナムM&Aにおける主なイシューとしては、法令違反や二重帳簿、追徴課税、贈収賄等、外資規制上問題のある事業目的、土地の権利証(レッドブック)の有無、使用期限等となります。

  7. 最終契約書のドラフト提出(株式譲渡契約書(SPA)・株主間契約(SHA)・マネジメント委託契約(MSA))
  8. 契約交渉
  9. 契約締結・調印(サイニング)
  10. 買収承認の申請(必要な場合)
  11. 買収承認の発行(受理から15営業日)
  12. 企業登録証の変更申請(出資者名の変更)
  13. 変更済み企業登録証の発行(受理から3営業日)
  14. 譲渡対価の支払(クロージング)

 

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