東南アジア特化型
M&Aマッチングプラットフォーム「ドマンダ」
M&Aをもっと身近に、もっとシンプルに。
M&Aマニュアル

日本の市場と違い成長著しいシンガポールの製薬業界動向

シンガポールには、世界でトップ10に入る製薬会社のほとんどがアジア地域の拠点を置いています。

アジアでの製薬業界の中心地と言って間違いないでしょう。日本の製薬企業も世界の業界動向と違いはなく、シンガポールを中心にアジア市場に熱い視線を向けており、現地の企業と組んで事業を強化したり、事業の拠点を新たに設立したりと動きが活発化しています。

日本政府もそのような日本企業の進出を後押ししており、伸び悩む国内市場に反して、高成長が期待できるアジア市場の開拓が期待されているのが現状です。

それでは、シンガポールの製薬業界動向について詳しく見ていきましょう。

1.シンガポールの製薬業界動向

シンガポールは、早くから政府主導で製薬業界やバイオテクノロジー産業の研究者育成のために補助金制度を導入するなど支援に力を入れている国です。

そんなシンガポールでは、製薬会社の動きも活発ですが、世界的な経済の不安定さに影響を受けた動きも見られます。

たとえば、タイガーバームで有名なハウパー(Haw Par)は、2018年11月にフィリピンと香港にある子会社を清算しました。

これは同社の業務効率化の一環として行われた清算です。

株価に与える影響はなく、グループ会社のアセットバリューにも実質的な影響もないとされていますが、世界的に経済が不安定で原料が高騰していることから、今後の収益が逼迫する可能性も考えられます。

ただ、2018年11月発表の第3四半期の決算では、同社は前年同期を40%上回る収益であり、アジア全体でのヘルスケア製品の売上は原料の高騰をものともしない勢いです。

感染病対策が進むシンガポール

シンガポールのDuke-NUS Medical Schoolによると、同校の研究者が、分子診断とバイオエアロゾルサンプリング法を組み合わせることによって、公衆衛生的に重要な呼吸器ウイルスのうち3種類をMRTで収集・同定できることを発表しました。

シンガポールは世界中から多くの人が訪れる国だけあって、以前も世界中で感染が拡大したSARSなどで見られたように、感染病のリスクに常につきまとわれていると言ってもよいほどです。

実際、シンガポールは世界的にも人口密度が高い国ということもあって、こうした脅威に弱いことは否めません。

こうした脅威への対抗策として、上記の件はさまざまな研究開発が行われている一例として銘記すべきでしょう。

シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)ががんの発生源を特定できるAI搭載機器を開発

シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)に属するシンガポール遺伝子研究所(GIS)が、人工知能(AI)を用いてがん細胞の変異を正確に記録するコンピューターモデルを開発しました。

また、それによって、胃がんを発生させる可能性のあるタンパク質合成の非コードDNAにおいて、新たな変異を見つけたことを発表しました。

GISの開発したAI搭載機器は、胃がんの200以上のゲノムを短期間でスキャンできるという優れものです。

従来の方法では、これだけの分析を終えるのに30年はかかると言われていました。

それが、GISがNSCC(国立スーパーコンピューティングセンター科学技術研究所)と協力し、同研究所のコンピュータ・クラスターによってゲノム全体を短期間でスキャンすることに成功したわけです。

その結果、がん細胞の変異が発生しやすいスポットを突き止めることに成功したのでした。

シンガポール国立研究財団(NRF)が合成生物学の研究開発プログラムを強化

2018年1月、シンガポール国立研究財団(NRF)は、非常に高度な科学技術を要するバイオテクノロジーの分野をさらに発展させるために、新しい研究開発プログラムを発足させました。

合成生物学の専門性をさらに高めるためのプログラムとのことで、このプログラムの成果は、今後、臨床現場や工業分野に使用される予定とのことです。

合成生物学とは人工的に天然の産物を生産しようという微生物学系の分野ですが、高いコストがかかるわりにその生産性が低いのがネックとなっていました。

このプログラムでは、そんなコストのかかる分野に2,500万ドルもの初期投資を行って、今後5年間で一定の成果を目指すとのことです。

製薬業界にも何らかの影響が期待できるでしょう。

日本企業の業界動向

シンガポールには世界トップクラスの製薬会社の多くがアジアの本拠を構えており、世界的にもアジアの製薬業界の中心地という認識は広まっています。

日本の製薬業界に関してもその認識に違いはなく、特にここ数年でシンガポールに進出を目指す企業が増えているのが業界動向として目立つところです。

そのいくつかの例を見ていきましょう。

業界動向を見据えてアジアに積極展開する参天製薬

参天製薬では、2020年に眼科領域でのシェアナンバーワン獲得を目指して、2017年以前からアジア市場への進出を積極的に展開するという姿勢を見せていました。

参天製薬が現地法人をシンガポールに設立したのは2013年です。

その後、タイやマレーシア、それにフィリピンと子会社を相次いで設立しており、アジア市場への製品投入を本格化させています。

その結果、2011年度ではアジア地域全体で67億円しかなかった売上高が、2016年度には237億円へと拡大、2017年度は291億円へとさらに拡大を見せました。

シンガポールに子会社を設立しASEANの拠点とした田辺三菱製薬

田辺三菱製薬は、2016年にASEAN全域の事業拠点としてシンガポールに子会社を設立しました。

また、同じ2016年にはタイにも子会社を設立しており、高血圧の治療薬「タナトリル」や高血圧や狭心症の治療薬「ヘルベッサー」の販売を開始しています。

アジア最大のヘルスケアサービスであるZuellig Pharmaと提携した大日本住友製薬

大日本住友製薬は、2017年にZuellig Pharmaと提携して、シンガポールを始め、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンの計5か国で自社創製の抗菌薬「メロペネム」を発売する体制を整えました。

アジアではこれまで、日本、韓国、中国、台湾を除き、導出先であるイギリスのアストラゼネカが販売を一手に引き受けていましたが、2016年に事業の返還を受けました。

今後の事業にプラスとなることは間違いないだろうと同社は期待しています。

シンガポールの医薬品製造会社と提携した日医工

日医工は、2014年に現地法人をタイに設立しています。

その後、2018年には、シンガポールの医薬品製造会社のサンワード・ファーマシューティカルとの提携を発表し、シンガポールとマレーシアで日医工の製品の承認申請や流通販売などの業務を手がける体制を整えました。

業界成長性

業界動向のところで見てきておわかりのように、日本の製薬業界もシンガポールを中心としたアジアの製薬業界に高い成長を見込んで積極的に事業を展開しています。

それだけ業界成長性があるに違いないと見込まれてのことですが、実際の市場規模や成長性はどうなのでしょうか。

市場成長の著しい東南アジアの医薬品・製薬業界

みずほ銀行の2016年のレポートによると、シンガポール、タイ、マレーシア、フィリピン、それにベトナムとインドネシアを含むASEAN地域の6か国における医薬品市場は、7.0%という高い年率での成長が見込まれています。

同レポートでは中国の成長率が6.4%でしたので、東南アジア地域の成長性は相当高いことが窺えます。

実際、世界的な都市に発展を遂げたシンガポールを見てもわかるように、東南アジアでは所得水準が上昇を続けており、それに伴い、アメリカなどの先進国と同様に生活習慣病のリスクも高まっているため、医療の提供体制の整備は急速に進んでいるのです。

今後も高い成長性が期待されていることは間違いありません。

日本市場は縮小方向か

高い成長性を見せるシンガポールなどの東南アジア市場と違い、日本の製薬市場の成長性は低いと見込まれています。

先ほどのみずほ銀行のレポートでは、日本市場の医薬品市場の成長率は年率わずか1.4%と、ASEANや中国を大幅に下回る見通しです。

今後、高齢化が進み、医薬品の需要自体は拡大していくと予想されますが、後発医薬品の普及が進むとともに薬価も引き下げられるため、市場自体は今後、縮小していくのではないかとの指摘があります。

そういう事情もあって、成長著しいシンガポールなどの東南アジア諸国へと業界動向が移ってきているのでしょう。

今後、新薬ビジネスなどで市場拡大を狙うには、今のうちから東南アジアでの存在感を高められるような戦略を取る必要がありそうです。

東南アジアの事業環境は整いつつある

東南アジアでは、シンガポールだけでなく、全体的に製薬業界や医薬品業界にとっての事業環境が整ってきつつあります。

シンガポールや中国を筆頭に、海外企業を積極的に自国に誘致していますし、薬事の規制についても各国と調和を図る方向に取り組みが進んでいるようです。

2012年から開催されている日本製薬工業協会によるアジア製薬団体連携会議では、アジア各国の取り組みや制度についての理解をお互いが深めると同時に、今後の薬事規制のあり方についてなどの議論が積極的に繰り広げられています。

2016年には、Pmda(医薬品医療機器総合機構)が新たな国際戦略としてアジア医薬品・医療機器トレーニングセンターを新設しました。

アジア各国の規制当局からの要望に応えて、各国での医薬品の審査や販売後の安全対策などの基礎的な情報に関する研修を行ったり、薬の製造施設から協力を得て、立ち入り調査を模擬的に経験できるプログラムを提供したりといったことが行われています。

政府も製薬業界のアジア進出を後押し

日本政府も製薬業界の新たな市場開拓を支援する気持ちに違いはなく、実際、積極的な後押しをしています。

日本の製薬企業がアジアなどの新興地域へ進出することを支援するために、新たに官民共同の組織を設立するなど、シンガポールを含め、アジア全体での市場開拓に積極的です。

シンガポールは世界的にも発展を遂げている国ですが、アジアのなかにはまだまだ医薬品の製造技術や設備、薬事制度などが十分に整っていない国も多く存在します。

企業が単独でこうした新興国に進出することには高いリスクがありますが、政府が後押しして各国の人材育成や環境整備を支援してくれるのであれば、今後はますます日本の製薬企業がアジア各国に進出していくことが予想されるでしょう。

ただ、当然、こうした新興国の市場にはアメリカやヨーロッパの大手製薬会社も攻勢をかけてくるに違いないため、日本企業がそのような状況の中で存在感を示すことができるかどうか、今後の業界動向から目が離せません。

日系企業によるシンガポール製薬企業買収事例

シンガポールは、東南アジアのほかの国々と違い、包括的な外資規制はありません。

そのため、あらゆる業種で進出できるようになっています。

製造業、卸売業、小売業などどの分野でも外資比率に上限はなく、自由に進出できるのがシンガポールという国です(公的事業など一部の分野は除く)。

実際、日本企業によるシンガポール関連のM&Aの件数も増加傾向にあります。

ただ、2019年に入って低成長が続き、同国の経済を引っ張っていた製造業を始め、各分野で落ち込みを見せ、現在もまだ油断はできない状況にあると言えるでしょう。

シンガポール政府はその対策として金融緩和へと舵を切り始めたようです。

日系企業のシンガポールでのM&A自体は活発に行われており、取引件数も取引額も年々増加を示しています。

特に顕著なのがテクノロジー分野で、そのほか、物流や不動産などの分野でも大型案件が見られます。

シンガポールでは創業者が高齢となっている企業が増えているため、売却先として欧米の企業だけでなく日系企業を候補に入れるところも増えてきました。

なかには上場会社の買収も見られます。

たとえば、シンガポール証券取引所上場の家電・家具・IT製品会社のCourts Asia Limitedが、日本のノジマによって買収されました。

システムソリューション企業のDeCloutが、協和エクシオに買収された例もあります。製薬企業の買収に関しては事例が見つかりませんが、業界動向から察するに、今後は取引件数が増えていくことでしょう。



関連記事